「この男に進退伺いを出させない。そしたら、許してやる」

わたしを解雇しろ、と言っているのだ。
「わたしにその権限はありません」
職員は言った。
男はしばらく考えた。
「あんた達じゃ話にならん。最高責任者を連れてきない」
男は作戦を進めた。
最高責任者は交際費を認められ、金を自由に使える。
そのことを男は十分知っている。
「はい、わかりました。すぐさま上司に話して、段取りをつけます。この男には仕事の続きもありますので、帰らせてよろしいでしょうか?」
その時、職員は顔を上げて、男の顔を見た。
彼の目的はわたしをその場から外し、契約業務を進めさせることだった。
男は頷いた。
職員とわたしはひとまず、店外に出た。
ラーメンを食べようとしていた男たちの姿はなかった。客引きが暗い路地から出てきて、私たちに声掛けたが、何かあったと感づいたのか、離れていった。
「あの人のいうことを聞くしかないですよ」
職員は小声で言った。
わたしは少し考えた。
KTSとの委託契約の解約願いを出すことを暗示していると解釈した。
仕事を辞めろ、ということだ。
わたしは怯え、怒ったが問いただすことを避けた、同時にそんなことを言う彼へ不信感を起こした。責任はとらず、他に転嫁する、これがこの組織の正体であった。
「後は私が対応しますから、仕事にかかってください。後でまた電話をします」
職員は言い、店の中に戻った。
 
バイクで走ると、二十分も先にある市営住宅を目指した。
午後九時までの残り時間も少なかったので、そんな時は効率的な集合住宅に限る。
階段を上り降りし、ドアからドアをノックし、インターホンを二、三回鳴らし、顔が出
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