らなかった。単純な形の山なのだが、難儀しそうな予感がはたらいた。
いつの間にか、日の明るさは遠ざかり、逆方向に歩いているのではないか、と迷いはじめた。
方向感覚を失っているのか?
あたりを見回すと、木々の色と形が失われていくのがわかった。足下も危うくなってきた。
闇と沈黙は違う世界を呼び込んでいく。
上の方で人の話し声がしている。幼い声が喋りあっている。
まさか人の声が?こんな所で、こんな時間に?
よく耳を澄ますと、小学生達が楽しげに喋りあっている。―ハイキングにでもしに来たのだろうかー。
馬鹿な!幻聴に違いない。
 俺自身の感覚がおかしくなってきているのだ。それとも、異次元の世界に引き込まれ始めているのだろうか?
山を下りていくと、尾根らしき場所に着いていた。
ともかく、降りていき、明かりを見つければ良いのだ。そこには人間世界があると言うことなのだ。
だが闇の中での緩やかな勾配は、上りか下りかの判断をつけにくかった。
丸っこい御影石が五、六個木の根本に集まっていた。丸っこいと言う事と集まっていると言うことは人の手が加わったということだ。ワン・カップの空が前の地面に埋め込まれていて、枯れた花が首を垂れている。
無縁仏だった。
(炭鉱があったのだから、流れ者や強制連行された朝鮮人達の霊を納めているのだろう。
事故死、拷問死、病死、など不幸な死に方にちがいない。引き取り手がなかったのだ)
 わたしは立ちすくんだまま、想像した。
すると、杉の木の幹の間から、明かりが見え隠れし始めた。
人家に着いたのだ。
一瞬、おかしな考えがわいてきた。
俺は今、地球の上で立っているのだろうか、それとも、地球の下で立っているのだろうか?下で立っているとすれば頭に血がのぼって、めまいを催すはずだ。けれども、引力の
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