こんな仕事をしてると、覗き穴に視線を向ける習慣がついている。

明るい覗き穴が暗くなれば、相手がドアの前に立って覗き穴に目を凝らし、わたしの風体を探っているのだ。変わらなければ不在なのか、居留守を決め込んでいるのだ。
 牢獄では、看守が覗き窓から囚人を監視している。これではまるでそんな関係みたいではないか?
 
単なる飛び込みセールスですよ!叫んでみたいが、相手がいるのかいないのかもわかない。
五件目まで、ドアは無言だった。
電気のメーター盤が外され、二本のコードが垂れている。無人の部屋である。そんな部屋が三軒に一軒はあった。コンクリートの崩れかけた階段もあった。
猫はわたしにきちんと付いてきた。
わたしがドアの前に立ちどまると、同じようにドアの方を向いた。
飼い主の部屋を探してるのだろうか。
六軒目のドア。
忍び寄る気配が伝わってきた。
気配は止まったまま、動かない。
ともかく用件は残しておこう。
ドアの下方の郵便受けのフタを開き、案内のパンフレットと購読申込書を押し込んだ。
次のドアに向かおうとした時、擦れる物音がしたので、振り向いた。
郵便受けに押し込んだ紙がゆっくり飲み込まれていく・・。
怖くなって見ると、郵便受けの受け口から紙が消えていき、ドアが生き物の口に見えた。人が居た!
チャンスだと判断してノックしてみたが返事はなかった。
紙は消え、受け口は蓋を閉じた。
気配も消えた。
猫は黙っている。

十一軒目まで反応がなく、不在か居留守か無人であった。

十二軒目。
ドアが喘ぎ、ガリガリと擦れる音を出した。

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