ブログ - 20201020のエントリ

死んだように生きる、といった女2。

カテゴリ : 
日記
執筆 : 
nakamura 2020-10-20 20:19

  その体験を親しい者に話して、あたははどう思うか?と尋ねると、若い女とそんなことができて羨ましいとか、あんたはスケベだ、なぜ、手を出したのか?など自分の意図とは異なる返事がかえってきた。普通の男ならこんなスキャンダルを公開したりはしないのに、なぜ、公開するのか?という言葉もあった。

 自分の人生にはいくつかの謎があり、今でも、解けないでいるが、この出来事は最大の謎でもあるのだ。

 なぜ、寒いからこちらに来ない?と誘ったのか?誘えば男女の関係に進むのではないか?それくらいのことはわかっていた。では、なぜ、言葉に出したのか?意識ははっきりしていたから、幻想の中での出来事ではない。現実感を失ってはいなかったのに、なぜ、あんな危険な言葉が出たのか?男に殺されても不自然ではない状況なのであった。

 精霊が言葉を出した、と言えばば少しは理解出来る。もう一人の自分・自我が言葉を出した、と例えればわかるかもしれないが、わたしたちは一生、自分の意志のとおりにしゃべり、動くわけではなく、自分以外のものの力によって動く場合がある。心臓や腸、内臓などは自分の意志とは関係ないものの指示・力で動いている。

 今、書きかけている小説が難関にぶつかって、すすまないでいる。(磁場)というタイトルであるが、そこにこんな言葉が出てくる。(磁力とは霊魂である)、これは古代ギリシャ哲学者のターレスが言った言葉であり、そこに謎の答えが潜んでいるのではないか?

  つまり磁力のせいで男女の結合にすすんだのであり、また磁力は霊魂でもある、ということである。古代ギリシャは哲学、宗教、科学が一つであった時代であるから、それが分離した現代にはない真理を潜ませているのである。

死んだように生きる、といった女。

カテゴリ : 
日記
執筆 : 
nakamura 2020-10-20 5:56

  およそ四十何前の出来事が、私の瞼の裏で、昨日の出来事であったかのように行きつ戻りつする近頃、わたしはY子への手紙を書いたまま、封をせず、置き放している。その住所に住んでいるかどうもわからないが、何らかの手掛かりになると考えていた。

 四十年前、何もできなかった失意のうちに東京から引き揚げ手来たものの、職はみつからず、家に籠っていた。そこに、知らない女からひんぱんに電話がかかってきた。身内の男の女で、冷たい彼との付き合いの打ち明け話であった。わたしはよく知っている男なので相談にのったが、彼と自分とは犬猿の仲であった。

 それから、彼女は彼と話をつけるために家出をしやってきた。私の家の近くの海に飛び込み自殺を三度、企てた。三度目は男が飯場暮らしのために出かけていた時であった。わたしは車で女を迎えに行き、家に連れて帰った。

 彼女は、もう、これからは死んだように生きる、と言い、振り返ってみると、自分が19歳の時に自殺未遂をした時に思い浮かんだ言葉と同じであったし、彼女も19歳であった。

 彼女との生活がはじまった。箱入り娘、として育てられ、料理の一つもできなかったから、わたしは食事を作り、鉄釜の風呂を沸かした。男は一週間も彼女を放置し、彼女の自殺の原因は、男から、おまえがいつまでも付きまとうから、おれはなにをやってもだめになる、といった言葉であった。

 男が女と話をつける、と言った約束の日、彼は一時間たっても帰って来なかった。

 わたしと女は小さな電気炬燵に入って、黙りこくっていた。凍り付くような寒さに体が震えていた。

 いつまで経っても男が返って来ない焦りと苛立ちに、時間を持て余していた。

 (寒いね。こっちに来ない?)

 何気なくはなったというしかないその言葉に、体に火がついた。抱き合い、駆け落ちするか?と言うと、そんなことしたらあいつはどこまでも追いかけてくる、女はつぶやいた。

 そして、裏口から足音を忍ばせて男が帰って来た。

 (なにやってる!俺の女に手を出しやがって!)

 男は叫び、こっちに来い!、という言葉に女は立ち上がり、男の部屋に行った。

 そこで、また、火が燃え始めた。

 耐えられない叫びを何度も耳にし、止めてくれ!と言って部屋に入ると、男は全裸で、女は布団をかぶって体を隠していた。

 それから、男は女はほったらかしたまま、飯場に戻り、自分と女との生活が戻った。

 何とも言えない日々であった。苦しくもあり、心があふれんばかりに豊穣になった日々であった。

 二人は、一週間ほど、過ごした。同じように食事をつくってやり、鉄釜の風呂を焚きものでわかしてやった。

 もう女を抱く気にはならなかったが、ある瞬間、女は身動きの出来ないほどわたしを抱きしめた。実家に帰ることになっていた。

 女は男に連れ添われて、実家に帰った。

 それから自分は婚約者と結婚し、男は暴力事件を繰り返し、精神病院に入った。彼は四十年たっても、閉鎖病棟の中でわたしを憎んでいる。

 これは自分の人生の中で最大の出来事であり、未だに自分の心の決着がつかないのである。

 

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